「お正月の伝統文化」のような民間伝承分野において「諸説ある」ではなく「地域差がある」を推奨するのはなぜ?

日本正月協会に対し、メディアの方々からの要求が多い”「諸説あります」というキャプションを使いたい”という要望が、「お正月のいわれやしきたり」といった民間伝承分野においてなぜ不適切なのかを、この記事では説明する。

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【結論】説だけではなく、解が複数ある場合があるために、「諸説ある」ではお正月の伝統文化に対するキャプションとして不十分である。

門松制作

お正月のいわれやしきたりにおいては、「説」が複数あるだけでなく、「解」が複数ある場合がある。この「解」が複数あることを示唆できなければならないため、「諸説ある」ではお正月のいわれやしきたりに対する解説として不十分である。

ただし、状況によっては、「正解が複数ある」と明記できないこともある。そうした場合のキャプションとして、日本正月協会が推奨するのは、「地域によって異なる」、「地域差がある」といった表現である。

お正月の伝統文化・民間伝承には、解が複数ある

寺子屋のように、学校ができるまで、日本の庶民は、文字の読み書きを学ぶ機会がなかった。読み書きを学ぶよりも、家族総出で農作物を育てなければ生活がままならない(農作物を育てても生活がままならないことが常である)ような飢餓や貧困に直面した鬼気迫る状況下で生活していたため、読み書きを学んでいる時間はなかった。

字を学んだり、本を読んだりすることができたのは、天皇や皇族、公家といった、一部の生活が豊かな人間(現代人は「上級国民」と呼ぶ)だけであり、特権的な技能であった。

庶民は、文字による伝承ができなかったので、親から子に「口頭」や「わらべ歌」といった形で、情報や技能を伝承してきた。そのような背景から、藩・村落・部落・一族・家族といった、非常に狭いエリアそれぞれの、独自の文化を形成してきたのである。

学校・メディア・ネット誕生以前の模式図

しかし、学校などのように、「教育」が社会インフラとしてシステム化されることで、「文献」が歴史を伝承する情報メディアとして尊重されることになり、権威性を得て、「スタンダードなモノ」として市民権を得てきた。

学校・メディア・ネット誕生以降の伝承模式図

このように、文献に記載されている伝承は、スタンダードなものとして残りやすい。しかし、文字としての記録を持たなかった庶民文化が、文献に記録されるようになったのは、主に近代(柳田國男出現以降)と考えられる。このような背景から、本に書かれている答えばかりが「スタンダードな答え」とは限らないし、本に書かれない「スタンダードな答え」もたくさんあるはずである。また、いずれの答えも間違っている(全てが単なるウワサ話や俗信にすぎない)場合もある。

わかりやすい例で言えば、お雑煮の具は地域によって様々であるが、それについての由来も様々であり、何か一つが「スタンダードな答え」とは限らない。

【他の分野との違い】考古学と民俗学との比較

富士山の朝焼け

考古学の分野は、遺跡や化石などの、モノとして証拠がある状態から、昔の状態を探求する分野」である。一方で、お正月の伝統文化などのように、民間伝承を研究する「民俗学」は、「(主として)モノとして証拠がない人の記憶などから、昔の状態を探求する分野」である。

例えば、「邪馬台国がどこにあったのか?」といった論争が、考古分野では根強く続いている。

◆参考:邪馬台国(wikipedia)

これは、「邪馬台国はどこにあったのか?」を示す証拠が複数の場所で見つかり、それに対する見解が複数あるということを示す。同時に、一般則として、「おそらく答えは一つであろう」との推量が前提としてあるために、「諸説ある」といった状態は適切であると言える。

言い換えると、「諸説ある」という表現は、「説が複数ある」ということを表現するものの、同時に、一般則としての「一つの問に対して解は一つである」という前提を明示的に排除していないために、暗黙的に「答えは一つであろう」との見立てをも示唆してしまうことになる。これは、答えが複数あるかもしれない(または一つも答えがないかもしれない)お正月の伝統文化などの民間伝承分野においては、適切な表現とは言えない。なぜならば、民間伝承においては、「説」が一つであるばかりでなく、「解・答え」も複数あるために、このことを明示できなければ説明が不十分だからだ。

【まとめ】お正月の民間伝承を報道する時の一つの案「地域によって異なる」 「地域差がある」

以上のように、お正月の民間伝承分野においては、藩・村落・部落・一族・家族といった地域によって異なる答えが存在し、答えが複数存在する場合がある。それに伴って、メディア等の情報発信においては、説が複数であるばかりでなく、解が複数あることを明示的に示すことが必要と考える。これは、単に説明が不十分であるばかりでなく、日本正月協会が、文化の多様性を尊重しているからだ。

文化に限らず、「多様性の尊重」とは、「答えが複数あることを認めること」である。説が一つであるばかりでなく、解も複数であることを明示的に認めなければ、多様性を尊重しているとは言い難い。

しかし、状況によっては、「解が複数ある」と明記できないこともある。そうした場合のキャプションとして、日本正月協会が推奨するのは、「地域によって異なる」、「地域差がある」といった表現である。この表現には、暗に「答えが複数あるかもしれない」といった推量を含んでおり、日本正月協会が尊重している「文化多様性」の存在を妨げない。よって、日本正月協会はこの表現を推奨する。

【補足】文化多様性の保護はSDGs活動である

SDGs04

日本正月協会は、2025年の大阪・関西万博に向け、様々なSDGs活動をおこなっている。

「文化多様性を保護するための教育」も、SDGs活動の一つである。

SDGs 4.7

2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

By 2030, ensure that all learners acquire the knowledge and skills needed to promote sustainable development, including, among others, through education for sustainable development and sustainable lifestyles, human rights, gender equality, promotion of a culture of peace and non-violence, global citizenship and appreciation of cultural diversity and of culture’s contribution to sustainable development

外務省Webサイトより引用 “https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal4.html”

日本正月協会の2025年大阪・関西万博に向けた取り組みのご案内

更新履歴

  • 2021年12月11日 初公開
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